2ntブログ
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Kは、落ち着かなかった。
動悸がして、食欲もなかった。
それがずっと続いていて、Kにとっての日常となっていた。

Kは夢子が好きだった。
夢子はよくそれを知っていて、彼を翻弄するのを楽しんでいた。
何度も罵ったが、夢子はその罵り言葉を心地良い顔で聞く。

「嫌い、って言われるのが気持ちいい。好きって言われるより好きだってよくわかるから。」

Kは自分が痩せていくのを、夢子のせいだと、腹立たしく思いながら
それだけ自分にとっての夢子が大きな存在だと分かってしまうから
ひどく負かされたようで惨めだった。
眠れない夜にも、惨めに思った。

その眠れない夜に、
夢子はKのことなどちらつきもせず
楽しく過ごし、心地良い眠りについてると思うと余計に眠れなかった。
Kは夢子からいつ連絡がくるかと思うと、予定も入れられない。
腹立たしいのは自分が彼女を好きだからだ、というのがわかってしまうくらいには、Kはバカでもないし、事実を認めることができる人間だった。

だけど、そんな時にKは勃起をしている自分を知るのだ。
夢子に腹を立てながら、それを情けなく惨めに思う時に、彼の身体は反応する。

今からおいで
と言われると、全てを擲って彼女のもとに走った。

彼女は、迎えに来いとラブホテルを指定することがあった。
Kはその痛みに叫んでしまいたくなる。叫んで痛みを発散させたくなる。

「K、どうしたの。どうして私と会えたのに嬉しそうな顔しないのよ。」

夢子は、本当に腹立たしそうに言う。
彼女にはKが苦しいのはわかっていたが、それに不満を持っていると感じると、本当に腹が立った。

Kはその夢子の怒った顔を見ると、それまでの感情が消え、ただ、恐ろしく思う。
怒らせて、嫌われて、捨てられたくない
という気持ちが何よりも強くなるからだ。

Kは自分がどんな顔をしたらいいのかわからなくなる。
様々な感情がごちゃ混ぜになって、混乱する。
泣いたらいいのか、怒ったらいいのか、笑ったらいいのか。

「夢ちゃん、僕は一体どんな顔をしたらいいの…教えて」

夢子は、Kを泣かせることも勿論可能であったが、そうはさせなかった。

「笑えばいいの。笑ってごらん。」

彼女は、そういった時の歪な笑い顔を見ると心が騒ぐ。
もっとKのことを、ボロボロにしたいと、せっつく。

Kの見上げる顔は常に指示を求めていた。
Kは夢子の一挙一動に脅え、心を震わせた。

夢子が残酷な気持ちになった時、彼女はKをいたぶる。

「K、私にとって、Kは一番に好きな人なんかじゃ勿論ないよ。わかってるよね。
それでも私を好き?」

夢子が残酷であるほど、Kと夢子の差が際立って、そういう時に、夢子は輝く存在にうつった。

「好き」
「私の一番じゃなくても、側にいたいの?」

今にも嗚咽しそうな姿に夢子は興奮する。
彼女はこうして、自らの口で言わせて認めさせるのを好んだ。

「嫌なの?じゃあもう一緒にいられないね。」

水風船がはじけた。

Kは、叫んだ後で次々に涙を零した。
涙の隙間に、一番じゃなくても一緒にいさせて、と言った。

夢子はそれを満足げに見て、快感を享受していた。
これ以上に気持ち良くなれることはないと、今の彼女は疑わないだろう。

Kの涙は彼女の股を濡らしていた。

夢子はKを壊したいが、しかし同時に壊したくなかった。壊した時には、快楽が終結するからだ。
なぶり倒して、可能な限り快楽に溺れようと自ら意志を確認して
蹴飛ばしたつま先を差し出して舐めるように命令した。

「壊れて楽にもさせてあげない。Kは私の快楽の為に、限界まで使われ続けるんだよ。いいね。」

Kも幸せを甘受していた。

「そう。だって僕は夢ちゃんの快楽の為にいるんだから。」